炸裂する嘘爆弾! ふざけんじゃねぇよ!!!

ヒルトンホテルの前でHを蹴り、シャツをズタボロにした翌日、私はHが働いているであろう時間帯に、彼と暮らしていた新百合ヶ丘の家に出かけた。

服や本をたくさん残して家出したから、少しずつ、それらを持ち帰るつもりだった。


合鍵で部屋に入ると、かつての愛の巣は、ひどい有様になっていた。

台所には、白カビの生えた、大根の煮物。

部屋中に、異臭がたちこめている。

床には、散乱したビールの缶と、酒ビン。

テーブルの上にはどんぶりが置いてあり、その中は煙草の吸殻の山だった。


肺気腫のくせに。

こんなハイペースで煙草を吸ってたら、病気になっちゃうじゃない。

私が彼の家を去っただけで、こんなにも部屋が荒れてしまうなんて…。

荒廃した部屋で一人暮らす彼の心情を思うと、私は切ない気持ちになった。


その瞬間。

部屋の片隅に、ある「物体」を発見した。

それは、2冊のエロ本だった。


は? なんじゃこりゃ?

昨日の浮気疑惑といい、エロ本といい、彼の周囲に自分以外の女がちらつく現実は、私を嫌悪させた。

あれほど、私を「ねこさま」と呼び、崇めていたくせに。

セックスだって、させてやったのに。

私の崇拝者が、他の女の裸体に欲情するなんて、許せない!!!

抜くんなら、私を想像して、抜け!


ムカついた私は、台所からカニばさみと、包丁やナイフを、あるだけ持って来た。

まず、カニばさみで2冊のエロ本を、ズタズタに切った。

それから、1冊につき2本の包丁を、本に垂直に貫通させた。

さらに、仕上げとしてどんぶりに入った吸殻の山を、包丁で刺したエロ本の上にブチまけた。


フフフ。

帰宅したHは、これで包丁妻の恐ろしさを、改めて知るだろう。

私とよりを戻したいのなら、私のことだけを想って、センズリこいてりゃいいのよ。


私は必要な荷物を持ち、ウキウキした気分で、彼の家を後にした。

Hの反応が、楽しみだ。


その翌朝。

知らない番号から、携帯に電話がかかってきた。


ねこさま、おはよう!


Hだった。

プリペイドの携帯の残高が残りわずかなので、職場のCさんに電話を借りたそうだ。

あまりにも爽やかなHの声に、私は異様なものを感じた。

この男、包丁が刺さったエロ本に、全く動揺しなかったのだろうか?

念のために、訊いてみた。


「ステキなご本、どう思った?」

「あー、それほどオレのこと愛してるんだなァって、感激したよ!」

「……」


ほんっとに、根っからおめでたい男だ。

私に蹴られても、シャツをズタボロにされても、エロ本に包丁を突き刺されても、私を恐れないなんて!

常識では考えられないHの従順さには、確かに惹かれるものがあった。

こんな男は、世界中のどこを探しても、ちょっと見あたらないだろう。

Hの虚言癖や、ルーズな金銭感覚に嫌悪感を感じる一方で、私はHを心のどこかで必要としていた。


まだ若かったころ、私は恋愛には白か黒しかないと信じていた。

だけど、男と女の関係にはグレーという中間項があること、しかもそのグレーも、ごく深いグレーからアイボリーに近いグレーまで、様々な色合いがあることを、今の私は知っている。


Hとの関係は、玉虫色だ。

もはや、夫婦としての愛はない。

しかし、同情だけで繋がっているというのも、少し違う。

「よりが戻った」訳でもないだろう。


これから、Hと私がどんなふうに関わっていくのか、私には分からない。

きっと彼にも、誰にもわからない。

男と女って、深い。


しかし、Hの虚言癖とルーズな金銭感覚には、相変わらず悩まされっぱなしだった。


ある朝、「H君が仕事に来ていない」と土木作業関係者から、何故か私の元に電話がかかってきた。


「あのう、私とHは、既に別居しておりますので。彼がどこにいて、何をしているのかは、私は存じ上げません」

「そうですか…。H君は、佳南さんと一緒に住んでいると言っていたので…」


仕事先には、私と別居している事実は伏せられていた。

きっと、夫婦円満な夫を演じているに違いない。

それにしても、Hは仕事にも行かないで、どこをほっつき歩いているのだろう?


さらに、彼と一緒に住んでいた新百合ヶ丘の家の近所の人からも、電話がかかってきた。


「佳南さん、お体は大丈夫ですか?」

「…は?」

「いえ、最近佳南さんのお姿を見かけないのでHさんに尋ねたら、肝炎にかかって実家で療養中だとおっしゃっていたので」

「え? 私、Hとは別居して、東京で暮らしていますよ。それに、肝炎にかかったのは昔の話で、今はとっくに完治しています。療養中だなんて、嘘ですよ、嘘」

「そうだったんですか…。あ、そうだHさん『みのもんたのサタデーずばっと』のスタッフになられたとかで、お忙しいみたいですね」

「えっ?(笑) Hは今、土木工事をしていますよ。番組のスタッフだなんて大嘘ですよ!!」

「そうなんですか…。僕も、変だとは思っていたんですが、やっぱり嘘ですか…」


その数日後、フジTVのG記者からも電話がかかってきた。

Hと私の2ショット写真を撮り、結婚祝いにフジTVの腕時計を下さったGさん。

なんとHは、長年の知り合いのGさんにも、私との別居を告げていなかったのです!!!

Hの虚言癖やルーズな金銭感覚、そして家出に至った経緯を、こと細かくGさんに話した。

ようやく真実を知ったGさんは、「ひどい話だなぁ」と憤慨していた。


仕事先やご近所、そして長年の知り合いであるGさんにまで、私の家出の事実をひた隠しにするHの大見栄に、私はうんざりした。

炸裂する、Hの嘘爆弾!

そんなに自分を、ご立派な人物に見せたいのだろうか? 笑わせる。

呆れ果てた私に追い討ちをかけるように、サラ金会社からも電話がかかってきた。

ご祝儀のお金が尽きた05年2月、Hは生活費の15万円を、サラ金会社のエ●ワから借りていた。


「Hさん、初回以降、ずっと入金がないんですが…」

「や、もうHとは別居しているので、そういうことはHに言ってください」

「でも、あなた連帯保証人になっているから、我々はあなたに、返済の催促をする義務があるんですよ」


…そう、私は、なけなしの生活費を借りる為に、2月初旬にHの連帯保証人になっていたのだった。


今は、生活保護と、家庭教師のお給料で質素に暮らしているのに…。

サラ金の返済をする余裕など、あるはずもない。

別居してまでも、私に迷惑をかけるなんて、ふざけんじゃねぇよ!!!


もう、やってらんない。疲れたよ。

Hが社会的に立ち直るまで、見守るのも情だと思っていたけれど、限界だよ。

せめて、サラ金の金だけは、払ってよ〜(泣)。

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