「オレ、フジTVに切られた!」
Hがまたまた、訳の分からない事を口走る。
何でも、フリーの編集者でライターの國貞陽一さんが私を取材した時、私がHの虚言癖を暴露したことがマスコミ人に漏れ伝わり、親しくさせてもらっていたフジTVのG記者がいきなり、会社ぐるみでHとの付き合いを断ってきたそうだ。
先日、私がGさんにHの真実を話したことも、その一因だろう。Hは、
「國貞を訴える。弁護士にも、もう相談した」
などと、バカな事を吠えている。
サラ金で借りた金も返せないHのどこに、弁護士に相談する金があるというのだろう。
それに、こんな馬鹿げた相談を請け負う弁護士がいるとは、到底思えない。
どうせこれも、Hのいつもの嘘だろう。
Hいわく、麻原逮捕から10年目にあたる05年、フジTVをはじめマスコミ数社が報道するオウムの特集シリーズに「元オウム信者」として露出する予定だったにも関わらず、その仕事が全部白紙になってしまった、そしてそれは全部國貞さんのせいだ、と言う。
TV出演の予定なんて、ほんまかいな。
アンタ、3月20日の地下鉄サリン事件10周年の時も、どこのマスコミからもお呼びがかからなかったじゃな〜い(笑)。
「みんなが、オレを潰そうとしている」
なんてほざくけど、アンタ、潰されるほどの大物じゃないですから! 残念!!
「もう、今の家にはいられない。マスコミの奴ら、みんなオレの家を知ってるから」
ハァ?
どうして、そういう思考回路になるのか、全く理解出来ない。
「家電製品とか全部売って、船で暮らす。しばらく宿無しになるから」
家にいられなくなるのは、マスコミのせいなどではなく、ただ単に家賃を滞納しているからじゃないの?
どこまでも大物ぶるHの言い草に、私は飽き飽きだった。
「ジャーナリスト」だの「プロデューサー」だの、自分では大口を叩いているけれど、Hのマスコミ関連の収入は、新百合ヶ丘の家で偶然見つけた源泉徴収書によると、年間で10数万円だった。
しかも、その大半は「取材協力費」。
「ジャーナリスト」としての原稿料など、皆無だった。
にもかかわらず、Hは自分を「ジャーナリスト」だと名乗ってはばからない。
私は、Hの虚言を、ひとつひとつ丁寧に訂正することに決めた。
「アンタ、いつも『ジャーナリスト』だなんて言ってるけど、私、源泉徴収書を見たんだからね。アンタの年収、10数万円じゃない! しかも、『ジャーナリスト』としての仕事なんて、してないやん!! ご近所さんにも、『みのもんたのサタデーずばっと』のスタッフになったとか大嘘ついて、恥ずかしくないの? いい加減、現実を見つめなよ!!」
「オレのこと、信頼してないのか! またオレを、追い詰める気?」
「追い詰めるとかじゃなくて! アンタに、ファンタジーの世界から、立ち直ってもらいたいだけだよ!!」
「ねこさまは、オレのこと何にも分かってないよ。オレの名前、Hじゃないかもよ? 今、アブナイ橋を渡ってるんだ」
そう言って、Hは不敵な笑みを浮かべた。
また、訳の分からないことを言って、話を逸らそうとする…。
恐らく、Hの頭の中では、彼は本当に「ジャーナリスト」なのだろう。
その幻想が崩れそうになった今、Hはさらに虚言を重ねる事によって、自分のファンタジーを守ろうとしているのだ。
彼の苗字は、住民票で既に確認済みだ。
彼の苗字がHではない可能性は、あり得なかった。
次に、学歴詐称の話になった。
「どうして、本当の事を言ってくれなかったの?」
「言わないんじゃなくて、言えないんだよ。オレの過去を全て知ったら、ねこさまがヤクザに追われる事になるから言えないの!!」
「じゃあ、私がほんまにヤクザに追われるかどうか、今の話を『包丁妻の日記』に書いて、みなさんに確認してもらおうか!」
「止めろよ! だから言いたくなかったんだよ!!」
次第に錯乱してゆく彼の支離滅裂な話を聞いて、Hは妄想型の精神分裂病患者なのだと確信した。
しかし病識のない彼を、精神科医の元に連れていくのは困難だ。
Hが精神病患者なのだとしたら、これ以上彼を説得しても意味がない。
この瞬間、私は今度こそ、Hときっぱり別れなければならないと思った。
Hが家を出るというので、彼の家に置いてきた自分の荷物の残りを、再び取りに行くことにした。
部屋の鍵を開けたら、何やら人のいる気配がする。
何と、Hが布団でグーグー寝ているではないか!!
思わず布団を剥ぎ取って、眠っている彼を蹴った。
「おい、起きろや。アンタ、仕事はどないしたん?」
「あ、ねこさま、おはよう。今日は役所に書類を取りに行くから、仕事は休みだよ」
ほんまかいな。
Hが言うことには、もうすぐ土木関係の資格を取るのだけれど、その申し込みには住民票が必要な為、今日役所まで取りに行くのだそうだ。
まぁ、Hに社会的な価値がもしあるとしたら、それは「メディアに顔出し出来る、元オウム信者」ということだけなのだから、自分達のほうが絶対「上等」だと信じて疑わないマスコミ関係者のオモチャにされるよりは、きちんと資格を取って、堅実に仕事をするほうが彼の人生の為になると思われた。
私はHを愛していないけれど、彼が不幸になればいいとは思っていない。
夫婦としての二人の関係は、確かに終わった。
けれど、彼には自立して、充実した人生を送ってもらいたい。
8割5分の好奇心と、1割5分の情。
そんな、危ういバランスで、私はHと繋がっている。
男と女の間には、他人には決して理解し難い、不可思議な感情のあやがある。
この感覚、結婚の経験がない人には、理解出来ないかも知れないなぁ。
Hの部屋の電気は、料金の滞納で止められていた。
どこまでも、カネのない男だ。
「あれっ? 家電を売って、お船で暮らすんじゃなかったの?」
「いや、家電を売ろうにも、電気が止まってるから正常に作動するかテスト出来ないし、第一、どうやって家電屋まで運ぶの?」
ふん。
それなら最初から、「船で暮らす。しばらく宿無しになる」だなんて、極端でバカな事言わなきゃいいのに。
この男、自暴自棄になったら、とんでもない事を口走るからなぁ。
そういうところが、私にはついていけないんだよ。
布団の側には、私がカニばさみと包丁でメッタ刺しにした、ボロボロのエロ本の切れ端が散乱している。
オイ、エロ本の切れ端を読むほど、セックスに飢えてるんかい!(笑)
そやろな〜。
ねこさまの体、良かっただろ!
もう二度と、お前には味わえないけどな!!!
私はエロ本の切れ端をかき集め、2階の窓から放り捨てた。
ざまあみろ!
今度、エロ本を見つけたら、ライターで燃やしてやるからな!!!