05年の初夏、事務所「オフィスH」を立ち上げ、名ばかりの社長に就任したものの、Hは家賃滞納で新百合ヶ丘のマンションを追い出されて宿無し状態だった。
そんなHを哀れに思い、新しいアパートが見つかるまでという期限付きで、Hを自宅に居候させてやることにした。
けれど、彼はなかなか新しいアパートを探そうとはしなかった。
Hとの同居は、相変わらず彼の虚言癖と、セックスの催促に悩まされる日々だった。
6月、高田馬場で一水会顧問の鈴木邦男さん司会のイベント、「連合赤軍」(ゲストは元連合赤軍兵士の植垣康博さん、ストリッパーの風間愛さん、作家の中村うさぎさん)に一緒に出かけたときも、Hの虚言癖で恥ずかしい思いをした。
豪華なゲスト陣ゆえか、客席にはマスコミ関係者の姿も多く見られた。
95年のオウムによる地下鉄サリン事件以来、「元オウム信者」という肩書きのみで10年間マスコミを渡り歩いて来たミーハーなHは、たちまち虚言癖の本領を発揮!
「アイツ、S潮社のK脇の部下だゼ。K脇が、オレに1年間身柄を預けたんだけど使えない奴だからさァ、K脇に突っ返しちゃった。オレ、もうS潮の仕事しないョって言ってやった、クククク」
「G代書簡の社長がサ、『Hさん、お久しぶりです。いいネタないですか?』ってオレに挨拶して来たョ、クククク」
また始まった…。
マスコミの方々に彼の大嘘を聞かれるのが恥ずかしくて、私は肩身が狭かった。
Hの、あまりの虚言に腹が立ったので、
「Hは今、家の電気もガスも水道も止められて、私の家に居候してるんですよー!!」
と真実を告げたら、会場のみんなは大爆笑!
Hはたちまち不機嫌になり、
「何であんな事、大声で言うんだよ! オレの顔を潰す気か?」
と、真っ赤になって私を怒鳴った。
バーカ。潰されるほどのツラかよ。
いつもいつも虚言ばかり聞かされる、こっちの身にもなってみろ。
その日の晩も、甘えた声でHがセックスを求めてきた。
心底うんざりした私は、雨の降る中、嫌がるHを無理矢理自宅から追い出した。
携帯の電源を切り、家電の留守電から何度も聞こえるHの声を無視して、私は久々に穏やかな気分で眠りにおちたのだった――。
今度こそ、本当にHと別れよう。
同情から居候させていたけれど、それも終わりだ。
奴が宿無しになろうと、私にはもう関係ない。
全ては、堅実に仕事をしてこなかったHの、自業自得なのだから。
私が、彼に責任を感じる必要はない。
自由になろう。
女王様である振り、奴隷である振り、愛している振り、全部捨ててしまおう。
一度はHの元から逃げたものの、寂しさからやり直そうと思い直した。
けれど、私が愛しているのは彼じゃない。
彼にも、私以外に女性がいることくらい、既に気づいている。
しかも、経済的な基盤も、極めて不安定だ。
綱渡りの同居生活をこれ以上続けるのは、もう限界だった。
乱暴な言葉でHを罵り、土下座する彼の頭を蹴り上げ、時には包丁を振り回す乱闘の日々に、私はほとほと疲れていた。
翌日、携帯電話を再び解約して、新しい携帯を買った。
この携帯の番号は、決してHには教えまい。
どんなに寂しい夜が訪れても、二度と彼には連絡を取らないことを、自分に誓った。
こうして、Hとの直接的な連絡手段は断たれた。
しかし、その後も家電の留守録には、20件以上もの伝言が連日のようにHによって残された。
恐怖を感じた私は、地元の警察に相談し、Hが家の近所をうろついていないか巡回してもらったりもした。
それでも、時間が経過するにつれ、次第にHからの連絡は途絶えがちになり、秋が深まる頃には伝言が残されることもなくなった。
やっと、終わった…。
Hとの結婚生活は、05年1月の披露宴から9ヶ月ほどで、ようやく幕を閉じた。
以上が、元オウム信者Hと過ごした生活の、全記録である。
Hは、オウム関係者の大半がその存在を知る、有名な「元信者」だったけれど、嘘にまみれた彼の人生の多くは、未だ謎のベールに包まれている。
知人のライターがS潮社のデスクから聞いた話によると、Hはオウムに入信する前は、ホームレスだったのではないかという。
一時期、オウムが積極的に、ホームレスを勧誘していた時期があったのだそうだ。
もしHがホームレスだったのだとすると、過去を粉飾したがる彼の性向も、病的な虚言癖も、ルーズな金銭感覚も、全て合点がいく。
教団で、麻原の警護班にいたと語ったHの言葉も、今となっては真偽の確かめようがない。
全てにおいて謎の多い、不思議な男だった。
ところで、バツイチ子持ちの元風俗嬢で、元オウム信者の「妻」にまでなった波乱の20代は、私の人生の汚点だろうか?
否、そうは思わない。
私はHに、人の心の不思議と、愛と憎しみの深淵を教えてもらった。
過去を隠し、綺麗な顔をして生きてゆくつもりはない。
06年5月7日、私は30才になった。
30代の今も、まるでジェットコースターに乗っているような、過激でスリリングな毎日よ。
どこに行き着くのか分からない暴走人生だけれど、命の途中下車だけは決してしない。
私は絶対、人生をあきらめない!